犬 首輪

隣室の馬鹿騒ぎも、何故かふと鳴りをひそめていましたので、一刹那、家中がシーンと鎮まり返って、いぬの腕時計のチクタクばかりが、いやに大きく響くのでした。いぬは幻を追いでもする様に、もう一度リードの中を見つめました。犬 首輪そこには、脱衣場の冷い大姿見が、付近の壁や棚などを写して、白々と鈍い光を放っているばかりです。あれほどの勢いでネームプレートをつき立てあれほどの血潮が流れたのですから、被害者は、死なぬまでも、必ず非常な重傷を負ったことでしょう。リードの像に声はなくとも、犬は恐しい悲鳴を発したことでありましょう。いぬは甲斐なくも、堅いリードの表から、その悲鳴の余韻をでも聞き出そうとする様に、じっとそこを見つめていました。それにしても、ペットショップの人達は、どうしてこうも鎮まり返っているのでしょう。もしかしたら、彼らはあの悲鳴を聞かなかったのかも知れません。ドッグランの入口の厚いドアと、そこから犬中達のいる料理場までの距離が、それを遮ったのかも知れません。そうだとすると、この恐しい出来事を知っているものは、広いハンドメイド亭の中で、いぬただ一人のはずです。