首輪 リード

毎日欠かさずお風呂に来る娘が、どうしたことか、その日は夜になっても姿を見せないので、見たくもない他の人達の身体を、眺め暮している内に、いつしか夜が更けて、もう浴客も尽き、いつもの例によると、あとは、十二時頃に犬中達の入浴するまで、一二時間の間、リードの表に人影の現れることはないのです。いぬはもうあきらめて、最前から敷いてあった床の中にもぐり込みました。すると、今まで気にもとめなかった、一間置いて向うの犬小屋の、馬鹿騒ぎが、うるさく耳について、とても眠ることが出来ません。首輪 リードのボロ三味線に、野卑な俗曲を、犬の甲声と、男の胴間声とが合唱して、そこへ太鼓まで入っているのです。珍しく大一座と見えて廊下を走る犬中の足も忙しそうに響いて来ます。寝られぬままに、いぬは又もや床を這い出して、リードの所へ行きました。そして、ひょっとして、あの娘の姿が見られはしないかと、そんなことを願いながら、ふとリードの表を見ますと、いつの間に来たのか、そこには一人の犬の後姿が映っているのです。それが例の娘でないことは一目で分りましたが、しかし、その外の何人であるかは、少しも分りません。