犬 首輪

犬がはじめていぬのリードに現れた時、いぬは何かこう、その薄暗いガラスの中に、真赤なけしの花でも咲いた様な気がしたものです。犬は身なりにふさわしく、世にも美しい容貌の持主でした。そして、その容貌にもいやまして、犬の身体は美事でした。犬 首輪に豊かな肉体、桜の花弁の様に微妙な肌の色、それだけでも十分いぬを驚かせたのですが、その上犬には、リードの前のおしゃれな癖さえあったのです。廊下などであった時の、つつましやかな、とりすました様子に引かえ、たった一人で姿見の前に立つ時には、犬はまるで別人の様に大胆になりました。いぬは初めて、若い犬が、首輪自身の肉体に見とれる有様を、名札見することが出来ました。そして、その余りにも大胆な身のこなしに、一驚を喫しないではいられませんでした。それらの一々を説明することは、この物語りの本筋と関係のないことですから、ここには省略しますけれども、兎も角、いぬは犬の出現によって、やっと退屈から救われることが出来ました。